むかし私はねずみの嫁入りという話が好きだった。
「年頃のねずみの娘をもつ親ねずみ、日本一のお婿に娘を嫁がせようと考えた
お日様ならよかろうと挨拶に行く。お日様にこにここう答えた。
わたしより雲さんのほうがつよいです、雲がかかるとわたしは隠れてしまいます。
それはそうだとねずみの親はこんどは雲を尋ねていく。雲は答えて言いました。
風が吹いたらわたしは飛ばされてしまいます。風さんのほうがつよいのです。
それもそうだとねずみの親はこんどは風を尋ねて行く。風は答えて言いました。
わたしが吹いても壁はぴくりとも動きません。壁のほうがつよいのです。
それはそうだとねずみの親はこんどは壁を尋ねて行く。壁は答えて言いました。
わたしがどんなに固くてもねずみは私に穴を開けます。ねずみが一番つよいです。
ねずみの親はそれを聞いてなるほどそうかと納得し、
むすめねずみはわかものねずみの家に嫁いで行きました。」
ふうむ、なるほどね、でも、そうかな?
わたしは思う。ねずみより猫の方が強いのに。
猫はきっとこんなふうに答えるでしょう。
「そうだね、ねこはいちばんだよ。かわいくて、気高い生き物だからね」
わたしなら続きはこうするでしょう。
「ねずみのわかものは言いました。わたしより猫さんのほうがつよいのです。
それもそうかと喜んで、ねずみの親はいそいそ猫さんに会いに行く。
ちょうどお腹がいっぱいの猫は答えていいました。そりゃあ猫がいちばんだ。
ぬすめねずみの結婚式。たくさんのねずみがお祝いにかけつけます。
ところがそこはもぬけのから。みんな猫に食べられました。
猫はおなかがいっぱいで幸せそうにゴロゴロ喉をならします。
太陽は暖かく、雲間はきらきら、風は優しくヒゲを揺らす。
壁によりかかって猫は言います。ああ、幸せだなぁ。」